
スポーツをするうえで最も避けなければならないのがケガです。ケガをすれば、競技はもちろん練習もできません。
練習を再開してもまずは体力と感覚を取り戻す復帰練習からとなるので、軽いケガでも1、2か月は遅れることになります。肉離れなど大きめのケガなら、そのシーズンはあきらめなければならない場合も多いです。

ベアフットシューズで関節のケガはリスクが下がりますが(*1)、より広範にケガを防ぐには、
- オーバーワークをしないよう、練習量を管理
- 筋膜リリース、マッサージ、ストレッチといったケア
- ケガしにくい体づくり
が求められます。
ケガをしにくい体づくりには特に筋トレが有効で、なんとケガ発生リスクを1/3にまで下げるという報告があります。
筋トレでケガのリスクは1/3に
ケガを防ぐためにはどのような運動が効果的なのかを調べた研究があります(*2)。
この研究は、各種運動と怪我のリスクについて調べられた論文の中から、精度の高い25本を抽出し統計を取ったものです。運動の種類は、筋力トレーニング、固有受容器トレーニング、ストレッチ、複合トレーニングに分類しています。
以下がその結果です。
運動 | ケガのリスク比率 |
---|---|
筋力トレーニング | 0.315 |
固有受容器トレーニング | 0.550 |
ストレッチ | 0.963 |
複合トレーニング | 0.655 |
ケガのリスク比率は、何もしなかった場合のケガのリスクを1とした場合、それぞれの運動でリスクがどれほど変化するかを示しており、数字が小さいほうがケガを防ぐ効果が高いことを意味します。
筋力トレーニング

表のとおり、最も効果が高かったのが筋力トレーニングで、ケガのリスクを0.315にまで下げていました。ケガのリスクを1/3(0.3333…)以下に引き下げてくれるわけですから、率先して取り組むべきです。
固有受容器トレーニング

次に効果が高かった固有受容器トレーニングですが、これはバランス動作、筋肉の伸長などにより、体を思い通りに動かせるようにするトレーニングで、治療現場などでもよく行われます。0.55と一定の効果は認められますが、専門的なトレーニングなので、プロのアスリートや治療の現場にいる方以外は無視してよいでしょう。
ストレッチ

ストレッチは、この研究ではほぼ効果は見られませんでした。しかしこれだけでストレッチでケガを防げないとするのは誤りです。
運動時のケガには、衝突時の骨折、転倒時の擦り傷といった外傷もあり、こういった外傷にストレッチは無意味です。一方、筋力トレーニングは、衝突に耐えられる体にできますし、肉離れなどの傷害も防ぐ効果があるので、総合的な評価が高くなります。
肉離れや疲労性のケガに絞れば、静的ストレッチが肉離れの予防(*3)、疲労性のケガの予防(*4)に有効であることが確認されています。
運動後、筋力トレーニング後には30秒程度かけてゆっくり伸ばす、静的ストレッチを取り入れましょう。
複合トレーニング
複合トレーニングは各種運動の組み合わせなので、最も効果が出てもよさそうですがこの調査では筋力トレーニングや固有受容器トレーニング単体よりも低い結果になりました。
ただ、多くのアスリートは競技練習に筋力トレーニングなどの各種トレーニングを組み込んでいるので、複合トレーニング群と筋力トレーニング群をどのように明確に区別するのか、疑問が残ります。
複数の論文から統計的に調べるメタ分析では細かな条件をそろえることができないので、複合トレーニングで効果が下がると決定づけることはできないでしょう。
複数の研究結果から確実に言えることは、
「筋力トレーニングはケガを防ぐ効果が非常に高く、積極的に取り入れるべき。肉離れ・疲労性の筋肉傷害も防ぐなら、静的ストレッチを組み合わせる」
ということです。
特に効果が高いエキセントリックトレーニング

筋力トレーニングのなかでも、ケガ防止の効果が高いのがエキセントリックトレーニングです。
エキセントリックトレーニングとは、筋繊維が伸ばされながら負荷をかける運動です。アームカールなら、ダンベルを持った状態でゆっくりとひじを伸ばす、スクワットならゆっくりしゃがむなど、筋肉に力を入れながら力とは逆方向に筋肉が引き伸ばされる動作です。
エキセントリックトレーニングにより、肉離れの発生率が低下(*5)、回復にかかる日数が半分程度にまで短くなる(*6)ことが分かっています。肉離れが減るのは、エキセントリックトレーニングにより筋繊維束長が伸びることが要因として考えられます(*7)。
仕組みを詳しく解説すると長くなるのでここでは割愛しますが、エキセントリックトレーニングが有効であると覚えていただければ十分です。
トレーニング動作は大きく
筋力トレーニングは、関節を大きく動かしたほうがケガを防げる可能性が高いです。エキセントリックトレーニングは筋繊維束長が伸びるため肉離れを防げると書きましたが、エキセントリックでなくとも、関節可動域の大きな筋力トレーニングにより筋繊維束長が伸びることが確認されています(*8)。
例えば、スクワットならハーフスクワットよりフルスクワットのほうが可動域が大きなトレーニングです。
ケガを防ぐ筋力トレーニングの方法
- 力を抜く、戻す動作はゆっくりと行う
- 関節は大きく動かす
- 軽い負荷のエキセントリックトレーニングで回復促進
- トレーニング終了後はストレッチを行う
力を抜く、戻す動作はゆっくりと行う
エキセントリックトレーニングの効果を得るためには、筋肉は負荷をかけながら引き伸ばされる必要があります。スクワットならしゃがむとき、懸垂なら腕を伸ばすときに筋が引き伸ばされています。
この戻す動作を素早く行ってしまうと、力を抜いただけで筋肉に負荷がかかりません。
戻す動作はゆっくり行うことを意識しましょう。
スクワットならゆっくりしゃがむ、懸垂ならゆっくり腕を伸ばすことでエキセントリックトな刺激を筋肉に与えましょう。ゆっくりの目安として、大きな関節なら3秒程度かけて戻しましょう。力を入れる(コンセントリック)動作は早くてかまいません。
関節は大きく動かす
関節可動域が大きいほうがケガ防止に役立つ可能性が高いので、動作はできるだけ大きくしましょう。
- スクワットなら深くしゃがみこむフルスクワット
- 懸垂ならあごがバーを越えるまで上げ、肘が伸びきる直前まで戻す
- プッシュアップ(腕立て伏せ)なら胸が床につく程度まで下げ、肘が伸び切る直前まで伸ばす
- カーフレイズなら、かかとがつま先より下になるまで下げ、つま先立ちの限界まで上げる
一般的には、関節を大きく動かしたほうが筋力トレーニングの効果は高いので(*9)、ケガ防止・トレーニング効果の両面から、動作は大きいほうがお勧めです。
ただし、大きく動かすことで痛みを感じる場合は例外です。痛みを感じない範囲でトレーニングを行ってください。
軽い負荷のエキセントリックトレーニングで回復促進
強く力を入れると痛みがある場合でも、軽い負荷で痛みが無いなら筋力トレーニングは可能です。むしろ回復を早めてくれる可能性が高いです。
アキレス腱炎治療にエキセントリックトレーニングが有効であるという研究結果がでており(*10)、手術よりも治療効果が高かったという報告まであります(*11)。さらに、肉離れからの早期回復にもエキセントリックトレーニングが有効であることが確認されており(*6)、病院でも治療に用いられています。
これはエキセントリックトレーニングにより、腱の配列の改善、筋から腱への力の伝達効率が向上するためだとされています。
アキレス腱に対するエキセントリックトレーニングなら、カーフレイズの脱力フェーズ、つまり、かかとをゆっくり下す動作が該当します。
注意すべきなのは、
治療効果が検証されたのは、エキセントリックトレーニングのみを実施した場合に限る
ということです。コンセントリック動作(持ち上げる動作)は行っていません。通常のトレーニングではコンセントリック・エキセントリックが交互に発生してしまいます。ケガからの回復を目的とする場合は、エキセントリックだけになるように工夫が必要です。具体的な実施方法は後述します。
ケガからの回復を目的とするなら負荷は軽くしましょう。痛みがある場合は負荷が強すぎます。痛みを感じない程度の軽い負荷にしてください。
軽負荷でも痛みを感じる場合はトレーニングを行わないでください。症状が悪化する恐れがあります。
ケガの発生初期、急性期もトレーニングは厳禁です。急性期は安静にしてください。軽い動作を痛みなく行えるようになってからトレーニングを開始しましょう。
*トレーニングは自己責任でお願いします。ケガの内容、程度により推奨される対処は異なるため当方では安全性を保証できません。トレーニングによりケガが悪化した場合でも、当方は責任を負えません。
*エキセントリックトレーニングの効果を期待できるのは、疲労性の炎症、肉離れに対してで、他の症状が疑われる場合はトレーニングを控えましょう。
トレーニングメニューの例
ここまで、ケガの防止、回復促進の観点からトレーニング方法とその原理を解説してきました。以下では具体例として、ケガの防止・回復目的で有名なトレーニング種目を3つご紹介します。
ハムストリングスのケガ防止・回復促進
ノルディックハムストリングス

ハムストリングスのエキセントリックトレーニングとして最も有名なのがノルディックハムストリングスです。
足を床に固定した状態で膝立ちになり、ここから前方にゆっくり倒れます。手の力や補助をもらって膝立ちに戻ります。
倒れる側のみトレーニングできるので、エキセントリックな刺激のみのトレーニングを行えます。
ノルディックハムストリングスは負荷が強いので、ケガをしている・痛みを感じる場合は次に紹介するエキセントリックのみのレッグカールにしましょう。
エキセントリックのみのレッグカール

ノルディックハムストリングスでは負荷が強すぎる場合は、レッグカールのエキセントリック部分のみを行いましょう。これには補助が必要です。
うつぶせに寝た状態で膝を曲げ、補助の人に曲げた側の脚を引いて伸ばしてもらいます。このとき、伸ばされる力に抵抗してください。抵抗しながら脚が伸ばされることでエキセントリックトレーニングになります。
このトレーニングの利点は、負荷を自由に調整できることです。痛みを感じない程度の力で抵抗しましょう。
アキレス腱のケガ防止・腱炎からの回復
アキレス腱に対しては、ふくらはぎのトレーニングであるカーフレイズが有効です。
エキセントリックのみのカーフレイズ

壁や手すりなどに手を置き体を安定させます。両足で直立した状態から、トレーニングする側の脚のヒザを曲げ、つま先だけ地面につけ、かかとを浮かせた状態にしますす。次に、膝を曲げた側の脚の片足立ちになり、かかとをゆっくり下します。これを繰り返せば、かかとを下げるエキセントリックトレーニングのみを行えます。
復帰を焦るあまり回数を増やしがちですが、回数に比例して回復が早まるわけではありません。疲労困憊まで追い込む必要はないので、1セット10回程度を目安に、痛みや違和感を感じない範囲で行いましょう。