ベアフットシューズの定義と5つの特長
ベアフットシューズ=裸足感覚のシューズで、業界ルールや科学的な定義があるわけではありません。
そのため、ベアフットシューズと呼ばれるものや、ベアフットを意識して作られたと思われるシューズの中には、機能が不十分(機能がありすぎる)なものもありますので、「裸足感覚」という製品説明をそのまま受け取るのではなく、「本当に裸足感覚で走ることができる」製品を見極める知識が必要です。
「薄底ならベアフットでしょ?」と思われることが多いです。
確かに薄底は大切な要素ですが、薄底=ベアフットというわけではありません。
むしろ、正しいベアフットランに必要な要素としては、薄底よりもフラットであることのほうが重要です。
以下に、ベアフットシューズに必要な5つの特長をご紹介します。
1. 低ドロップ、できればドロップ0のフラットシューズ
ドロップとは「かかととつま先の高さの差」のことです。かかとが10mm高ければドロップ10mmとなります。
ほとんどのランニングシューズが、ドロップ9~15mmで作られています。
ベアフットランに求める最も大切な効果は「正しいフォアフット接地で走ることができる」ことです。
フォアフット接地は足の前側、とくに母趾球や小趾球と呼ばれる、指の付け根からで接地することですが、かかとに厚みがあると足の前側から接地するように走っても、かかとが先に地面についてしまいます。
かかとの厚い靴で、かかとより先に足の前側を着くためには、つま先を不自然なほど下向きにする必要があり、負担になります。
ハイヒールをイメージするとわかりやすいです。かかとの高いハイヒールで走るのが負担になるのは容易にイメージできます。
かかとが高いと、立っているだけでもバランスは前方に崩れます。前方に崩れるのを防ぐには後ろ重心にしなければなりません。
かかとが高いことで重心が前に移動して進むという解説がありますが、それを示す科学的根拠はありません。
むしろ、トップランナーたちは体を直立させ、重心の真下で接地しており、前傾するのは加速する瞬間のみであることがわかっています。
そもそも、かかとのクッションはかかと接地で走るためにナイキが1970年代に作った構造で、それ以前のランニングシューズには存在しませんでした(詳しくは「かかと接地(ヒールストライク)はナイキが作った走り方」)。その後、かかと接地が不利であることがわかり、現在の厚底シューズは、足の前側から接地するフォアフット接地専用に作られています。
2. 薄底
ドロップ0は高さの差なので、厚底シューズでもつま先もかかとと同じく高ければドロップ0になります。
最近マラソンで人気の、厚底カーボンシューズの多くは6mm~8mm程度の低ドロップ設計で、靴底の形状もフォアフット用に作られているのでドロップは問題ありません。
ですので、レースを考えるなら厚底カーボンでも良いですが、これではもちろんベアフットランにはなりません。
薄底の利点は
- 軽い
- 接地時に地面の感触を得られる
- 安定している
ことです。
軽い
シューズは軽いほどにタイムが向上することがわかっています。シューズは履いてしまえば重さはほぼ感じないかもしれませんが、かなり影響を与えています。
ぜひ裸足で走ってみてください。驚くほどスムーズに足が前に出るのが実感できます。
シューズの最も重い部分は靴底です。ここが薄ければ大幅に軽量化されます。
接地時に地面の感触を得られる
接地の感触がはっきりとわかるからこそ、足のどこから接地したのか、足首の角度は正しいのか、接地によるブレーキがかかっていないのかを詳しく知ることができ、「正しいフォアフット走法」を身に着けることができます。
体のバランスを保つうえでも、地面の感触=地面からのフィードバックを得られることが重要です。
体は無意識のうちに、地面の傾き、硬さ、凹凸等に合わせてバランスをとるように働いています。このおかげで、例えば固いコンクリートから砂浜に踏み込んでも転倒することはありません。
同様のバランスの処理を機械にさせようとすると非常に大変です。
この複雑な処理にはもちろん脳や三半規管が働いているのですが、足の裏にある感覚器官も重要な役割を果たしています。
足の裏には圧力や形状を感じとる受容器官が104個もあり(*1)、地面の細かな形状を認識しています。
靴の中の小さな砂があるだけでも気になりますよね?足の裏がそれほど敏感なのは、地面の情報を細かに把握するためです。
この感覚器官は加齢とともに減少し、感覚が鈍化することがわかっています。
加齢による感覚の鈍化に伴い、地面の形状の認知が衰えます。こうなると、地面の変化に気づきにくくなり、転倒にもつながりますし、地面の形状に合わせてバランスをとるのが遅くなります。
靴底の厚いシューズは、地面の感触が得られにくくなるので、まさに加齢した足。
体の反応、バランスを鈍らせてしまいます。
安定している
物体は低いほど安定し、高いほど不安定になります。長い棒と短い棒、太さが同じなら短いほうが簡単に立てることができますよね。さらに土台は柔らかいほどぐらつきます。
靴底も同じです。
薄底のほうが厚底より安定性が高いです。
このため、厚みのあり柔らかい靴底では、足首が左右にねじれすぎる、オーバープロネーションやサピネーションが起きやすくなります。
また、ぶつかりそうになった時に避ける、起伏のある路面を走るといった、急な反応や変化への対応を求められる場合も安定性が重要になります。
起伏のある不安定な地面にでは、接地の瞬間にバランスを整えなければならないのに、シューズが不安定では正しい足首の角度をとりにくく、足首の負傷や転倒のリスクが高まります。
また、薄底であることは、次に紹介する、「クッションがほぼ無い」、「柔軟なソール」といった特徴に結びつきます。
3. クッションがほぼ無い
ベアフットシューズにクッション性はほぼありません。多くの場合、靴底を構成するゴム1枚です。
「クッションが無いと足・膝を痛めるのでは?」と多くの人が思うところですが、
- 1986年、ナイキが靴のクッションに特別な効果は見られなかったと発表
- 2009年、クッションが怪我を防ぐこと示すデータは、過去200年にわたって調べても見つからないことが判明(*2)
- 2012年、米軍の研究で、クッションの無いベアフットシューズのほうが怪我の発生率が低いことが判明(*3)
など、クッションに足・膝を守る機能がないことが明らかになっています。
1970年代からクッション付きのシューズが登場。それからクッションの性能はどんどんよくなっていきました。しかしアメリカ足病スポーツ医学会(American Podiatric Medical Association: APMA)の元会長、Stephen M. Pribut博士は2010年ごろに、
「1970年代後半に本格的な研究が開始されて以来、アキレス腱の障害は約10%増加し、足底筋膜炎の発症率は変化がない」
と報告しています。
クッションについて詳しくは「クッションで足の怪我は減らない-研究では裸足有利」で解説しますが、靴のクッションに足を守る効果はありません。
野生の動物は、靴は履きませんよね。2本足で走るダチョウやニワトリだって怪我をしません。
もっと身近な例では、犬の散歩。裸足の犬は平気なのに人間は足やヒザを痛めます。
人の足が本来持っているクッション性機能を正しく引き出し、適切な動作を身につければシューズにクッションはいりません。
それどころか、
と、クッションがないほうがむしろ安全であるという調査結果が出ています。
クッションは不要どころか、人が本来持つ足の機能と正しい動作を妨げています。
4. アーチサポート無し
土踏まずを支えるアーチサポートは足本来の機能を阻害します
アーチサポートとは、足の土踏まずを助ける靴内部のふくらみのことです。
- 偏平足にならない
- 足の自然なアーチ構造(土踏まず)の形成を助ける
という目的で用意されていることがありますが、こちらも不要どころか、足本来の機能を阻害しています。
そもそも、足のアーチ構造は、着地時の衝撃を受け止めるためのクッションです。
衝撃を吸収する3つのアーチ
横アーチ(赤)は小趾球と母趾球を結ぶ線。外側縦アーチ(緑)は小趾球とかかと、内側縦アーチ(青)は母趾球とかかとを結ぶ線
足には3つのアーチ構造があります。それぞれが曲げられたバネのように、着地の力によりアーチが引き伸ばされることで衝撃を吸収しています。
アーチサポートによって土踏まずが下から押し上げられると、着地してもアーチがのびることができず、曲がったままになります。このため、足の骨による衝撃吸収ができず、むしろ骨に衝撃がきます。
土踏まず部分が盛り上がったシューズ、およびインソールは足のけがを増やすだけなので絶対に避けましょう。
5. 柔軟なソール
靴底は簡単に曲がる柔らかさ
アウトソール(靴底)が柔らかいことも足の自然な動作には欠かせません。
走るときも、歩くときともに、接地した後、足はつま先側が屈曲します。
ここが曲がることで足が転がるように力が流れ、ブレーキをかけることなく体が自然に前へ進みます。
強く走るときは、足の裏に力が入ることで、屈曲した足がバネの働きをして、強く体を押し出します。
ソールが固いと、この屈曲が行われず、スムーズな体重移動ができません。
アメリカの指導書では幼児が使用する靴は底が柔らかものを使用するように書かれています。
幼児の体重と力では靴底を曲げることができない為です。
それなら、幼児以降の小児・成人でも自然に足が屈曲する靴のほうが好ましいのは言うまでもありません。
強く走った場合は加わる力が強いので、厚みのある靴底でも曲げられますが、靴底がバネの役割をはたして、足のバネが使われず、足が衰えてしまいます。
足の裏を鍛えたうえで、レース用のシューズを履けば、シューズと足裏、両方のバネの力を使うことができます。
スムーズな体重移動の習得、足本来のバネの力を取り戻すには柔軟なソールが必要です。
ベアフットシューズの特長とメリットまとめ
ベアフットシューズに求められる特長・機能とそれらにより得られるメリットをまとめると以下のようになります。
- 低ドロップ、できればドロップ0のフラットシューズ → 正しいフォアフット走法の習得
- 薄底 → 軽くて安定。素早くバランスがとれる
- クッションがほぼ無い → 安定。足本来の機能を高めて怪我を防ぐ
- アーチサポート無し → 足のアーチ構造によるクッションで怪我を防ぐ
- 柔軟なソール → 正しい体重移動を身に着ける
クッションが不要であることに、最初は皆さん心配になります。
しかし、従来の履物にクッションはありませんでした。
1万年以上前から履物は存在していましたが、履物にクッションがついたのは1970年代。履物の歴史で見ればつい最近のこと。交通機関が未発達な時代、クッション無しの履物で現代より長い距離を徒歩や走行で移動していたわけです。
古来はアスファルトの路面はありませんでしたが、土の地面でもクッションよりはるかに硬いです。薄いゴム一枚でアスファルトの上を走るくらいで、ちょうど固い土程度の感触になります。
さらにどんなに優れたクッションでも、体重を受け止める力は無いこともわかっています。シューズにクッションが不要なことは科学的にはっきりしているので、心配は不要です。
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