
最近は短距離選手(スプリンター)でも厚底シューズを履く人が出てきました。強い反発、大きなクッションが魅力的にうつるのでしょうか。
しかし、厚底シューズは短距離選手にとって意味がないどころか、成長を阻害する悪影響のリスクをはらんでいるので、絶対に使用すべきではありません。
「厚底vs超薄底ベアフットシューズ-目的別に選ぶ」で詳しく解説しているとおり、そもそも厚底シューズはレースに適したものであって、長距離選手であっても練習に使うべきではありません。
何を求めて厚底シューズをはくのか?
厚底シューズを履いている人には、
- 強い反発や大きなクッションに魅力を感じる
- テレビや動画でよく見るから良さそう
- 店員に勧められて
など厚底シューズを選んだ理由はあると思いますが、考えるべきは「なにを求めてこのシューズをはくのか」です。
厚底シューズに何を求めているのでしょう?
クッションがあるから怪我をしにくい?
いえ、クッションが怪我を防ぐというデータは一切なく、むしろ怪我のリスクが高まることが示されています。

例えば、アメリカ空軍の調査で、一般的なランニングシューズとベアフットシューズを比べると、ベアフットシューズのほうが怪我が少ないことが示されました。特に下腿(Lower Leg)・膝(knee)では3倍、臀部(Hip)では10倍もの差が出ました。
1992年、1997年の調査で、クッションが柔らかいシューズのほうが接地時の衝撃が強いことが明らかになりました。ヒトは接地面が柔らかいほど強く踏み込んで安定しようとするためだと考えられています。
(詳しくは「クッションで足の怪我は減らない-研究では裸足有利」で解説しています。)
厚底シューズには、足を守る機能も、衝撃を和らげる機能もありません。
スパイクのような反発が得られる?
厚底カーボンシューズには高反発素材が使われており、シューズ自体の反発力は非常に強いです。しかし、足の反発を合わせて考えると、一般的なシューズと差がありません。
2019年のIain Haunter氏の研究(*1)で、ヴェイパーフライは他のランニングシューズに比べて2歩当たりのストライドが2cm~4cm長くなることが示されました。(ヴェイパーフライ:2歩で3.07±0.3m、比較対象AB:2歩で3.03±0.3m、比較対象ZS:2歩で3.05±0.3m)。つまり1歩あたり1cm~2cmのストライド向上です。ここだけ見ると他のシューズより反発性が優れているように見えます。
しかしヴェイパーフライの靴底は、他のシューズより1cm~2cm厚みがあります。
日本陸上競技連盟のデータによると、男性トップランナーの身長比ストライドはおよそ95%~105%(*3)です。身長比ストライドは100%程度と見られるので、身長が1cm伸びるごとにストライドも1cm程度向上します。
ストライドと身長(日本陸連より*2) | |||
---|---|---|---|
選手名 | 平均ストライド | 身長 | 身長比 |
大迫傑 | 181.7cm | 170cm | 106.90% |
キプチョゲ | 185.0cm | 167cm | 110.80% |
瀬古利彦 | 163.5cm | 170cm | 96.20% |
つまり、厚底カーボンシューズは、靴の厚みの分だけストライドが伸びているにすぎません。上半身を含めた身長比でストライドが100%なので、脚だけで1cm長くなるならストライドが1cm向上ではむしろ足りません。
厚底シューズ自体は良く弾むのですが、靴底が曲がらず足がもつ反発性を活かせないため、最終的な反発力・推進力は通常のシューズ程度になってしまいます。
フルマラソンのような長距離を走る場合は、足裏やふくらはぎの筋・腱をなるべく使わないことでエネルギーを温存し、シューズの反発を生かすことが有利に働きますが、それ以外の局面では厚底シューズに利点はありません。
一方、スパイクシューズは薄底で、力をかけることでしっかりと曲がり、足の力にプレートの反発力を加えるように設計されています。そのため、種目や競技者レベルに合わせて靴底の硬さの異なるスパイクが用意されています。
スパイクシューズと厚底シューズ、どちらも高反発素材が使われていますが、その働き方は全く異なります。
厚底シューズをスパイクシューズに近い高反発シューズとして練習に用いる、ということはできません。
厚底シューズの危険性
厚底シューズはシューズの反発を使い、足裏やふくらはぎの筋活動を抑えて走るためのシューズです。
厚底で靴底が曲がらないため、足裏の筋・腱は特に使われません。
反発力を生む足裏の筋・腱を鍛えるべき練習で、筋・腱を休ませ、シューズの反発をもらって走ることの意味とは一体何なのでしょう?
無意味どころか、走りが遅くなるリスクがあることは研究からも明らかです。
足裏・ふくらはぎなどを鍛えられない

厚底カーボンシューズは足裏とふくらはぎの筋・腱があまり使われません。
2019年のIain Haunter氏の研究(*1)で、厚底カーボンシューズでふくらはぎの活動量が4%抑えられることが報告されています。2020年の順天堂大学スポーツ健康科学部の研究(*3)でも、ふくらはぎの活動量が5%ほど抑えられることが報告されました。
筋の活動量が抑えられるため、疲れにくく長い距離を走ることができるわけですが、練習で活動量を抑えてしまえば筋と腱の能力は低下していきます。
厚底シューズは練習の効果を下げてしまうわけです。
厚底カーボンを履き続けたら次第にスピードが出なくなったという経験談はよくある話で、検索するとすぐに見つかります。これは足裏・ふくらはぎの筋や腱が衰えていくためです。
短距離走は地面からの反発をどれだけもらえるかが大きなカギなので、短距離選手は長距離選手以上に、バネとなる足裏、ふくらはぎの腱を強く・太くして反発力を高める必要があります。
バネを鍛えにくい厚底シューズは走りを遅くするリスクすらあるといえます。
短距離選手にとって厚底はデメリットしかない
厚底シューズは長距離走の疲れを軽減してくれるシューズです。10kmをこえるレースでは強力な武器となります。
しかし、それ以外の局面では役に立たないどころか脚の成長を阻害します。
筋・腱を鍛えるなら、裸足かベアフットシューズです。事実、裸足やベアフットシューズで短距離の生成器が向上した、足のバネが飛躍的に向上したという調査があります。
裸足・ベアフットシューズで短距離が早くなるという研究結果

2014年、南アフリカStellenbosch 大学の研究では、裸足でトレーニングすることにより敏捷性が向上。10m、20m走のタイムが劇的に向上することがわかりました。この研究では、一般的なランニングシューズをはいた群では成績の向上は見られませんでした(*4)。
2023年、インドのMahatma Gandhi医科大学・研究所も、裸足によるトレーニングで敏捷性が向上、短距離のタイムが大幅に向上することを報告しています(*5)。
その他にも、ベアフットランナーである吉野は、足の反発力を示すRDJインデックスを計測したところ、男子大学生国内トップクラスの短距離選手、跳躍選手に匹敵する値だったことを報告しています(詳しくは「ベアフットでアキレス腱強化!短距離・ジャンプ力強化に有利」)。
まさに厚底シューズとは真逆。ベアフットシューズで練習するだけで短距離走のタイムや跳躍力が向上するわけで、迷うことなくベアフットシューズの一択です。
ここでは短距離選手にフォーカスして書いてきましたが、長距離の練習であっても普段は厚底シューズを使わないほうが良いことに変わりはありません。
ただ、厚底シューズは不安定で使いこなすには慣れが必要なので、長距離選手の場合は時折厚底シューズの練習を取り入れる必要は出てくるでしょう。
参考文献
*2. 日本陸上競技連盟公式サイト. ピッチ、ストライド、ストライドの身長比を計測&計算してみよう
*3. 秦啓一郎, カーボンプレートを内蔵した厚底マラソンシューズが長距離選手の脚スプリングに与える影響; 日本トレーニング科学会大会プログラム・抄録集 33rd, pages 36, 2020.