
フォアフット接地は「つま先接地」と解説されることがあります。間違いではないのですが、誤解を招く表現なので私は「つま先接地」という言葉は使いません。
前足部から接地するので、つま先接地で間違いではないのですが、つま先を下げることだと誤解されやすいです。
シューズメーカーや販売店でも間違った説明をしているくらいです。
まず、正しいフォアフット接地を見ていきましょう。
正しいフォアフット接地
正しいフォアフット接地の4つのポイント、
- 接地時の足の角度 – つま先は下げず地面とほぼ平行に
- 接地開始の位置 – 接地は小趾球の頂点から
- 接地時の足の動き – 足を後方に引き戻す
- 指を上げる
を見ていきましょう。
接地時の足の角度-つま先は下げず地面とほぼ平行に
フォアフットだからつま先を下げる、というのは最もよくある間違いです。
「つま先接地」という言葉は、NHKがテレビで紹介して(*1)一気に広まりました。後に「42.195kmの科学-マラソン【つま先着地】vs【かかと着地】」という書籍(*2)にもなりました。
この時「つま先接地」として紹介されたパトリック・マカウ(当時のマラソン世界記録保持者)の接地の瞬間を見てみましょう。

これが「つま先接地」としてNHKが紹介したマカウの接地です。足は地面とほぼ平行で、かかとをわずかに浮かせ、小指の付け根「小趾球」から接地しています。ほぼ平行でも小趾球接地なので、間違いなくフォアフットであり、ミッドフットではありません。
この時の調査で
- 着地の瞬間に足を地面と平行にしている
- ミッドフットの山本亮選手の接地衝撃は体重の2.4倍、フォアフットのマカウは体重の1.6倍しかない
ことが確認され、番組でもこの動きについて解説されています。
もちろん、マカウだけではありません。

キプチョゲ(白いウェア)のフォアフット接地も地面と平行(参考:Eliud Kipchoge in SLOW MOTION)
マラソンの世界記録保持者でフォアフットの最速ランナー、エリウド・キプチョゲが人類初の2時間切りに挑戦した時の画像でも、接地の瞬間は足がほぼ平行になっています。

科学論文誌Natureに掲載された(*3)、ハーバード大学のDaniel E. Lieberman(ダニエル・リーバーマン)が公開するベアフットランの映像資料でも、小趾球が接地した瞬間には足が地面とほぼ平行になっています。
フォアフットランナー達は、接地前はつま先が下がっていても、接地の瞬間には足を地面とほぼ平行にしています。
足を平行にすることで、小指球の頂点から接地できるようになり、接地時のブレーキを最小限に抑えることができます。
接地開始の位置 – 接地は小趾球の頂点から

小趾球の頂点で接地開始することの意味は、足の前足部の丸みを見るとわかります。
前足部を模式的に描くと半円のような丸みがあります。
つま先を下げると半円の頂点より前側から接地することになります。これでは足を前方向に突き出す形になり、接地時に進行方向とは逆向きに力を加えてしまいます。
ブレーキになるのはもちろん、その衝撃を受け止めるふくらはぎにも大きな負担になります。
足をほぼ平行にすると半円の頂点から接地できます。これにより地面との衝突を最小限に抑えることができます。
そして、次の足を引く動きにスムーズにつなげることができます。
接地時の足の動き – 足を後方に引き戻す

足を引きながら接地することで、地面との速度差を減らして衝撃を緩和
マカウの接地でもう一つ明らかになったのが、足を後ろに引き戻す動作です。同様の動作をアメリカのベアフットランナー、ケンボブ・サンクストンも紹介しています(サンクストンは足を引き上げるという表現で解説しています)。
着地の直前から足を後方に引くことで、接地する足と地面との速度差を減らせるので、接地の衝撃を減らし、エネルギーのロス、地面との摩擦も軽減できます。
地面と同じ速度で足を引き戻しながら接地することで接地の衝撃が軽減されます。
ただし、後方に蹴ってはいけません。接地後は重心の真下に力を加えたら、膝を前に引き上げます。
短距離では、後方に蹴ると接地時間が長くなりすぎピッチが落ち、足が流れてしまいます。また、短距離ではどれだけ強い反発を地面からもらえるかが大事ですが、反発が最大になるのは真下に力を加えた時です。
長距離では後ろに蹴ると、エネルギーが無駄に使われて消耗が早くなります。後ろに蹴る動作は、筋収縮を使うのでエネルギーのわりに推進力が少なく効率が悪いです。それに対し、瞬間的に力を加える動きは腱のバネを使うことができるので、エネルギー消費が少なく効率が良いです。
長距離、短距離ともに、接地して、重心の真下にむけて瞬間的に力が発揮されるのが最も効率が良いということです。
ちなみに、靴底の小趾球付近のすり減り方が非常に早い人は、引きながらの接地ができていない可能性が高いです。耐久性の低いシューズでも正しく走れば数か月は持ちます。
指(趾)を上げる

先ほどのベアフットランナーの画像をもう一度見てみましょう。指がやや上がっているのがわかります。
接地の瞬間は指(足の「指」は正しくは「趾」)を上げます。長距離でも短距離でも指は軽く上げます。
短距離で、指をしっかりと上げるように指導している場合もありますが、これは厳密には誤りです。
指に力を込めてしっかりと上げると、つま先を上げやすくなるので、つま先が下がりがちな初心者にはよいですが、地面をキックするときに指の腱から得られるはずの反発が使えなくなります。
指を上げても足の剛性が変わらない=足裏側の反発は変わらないことがわかっていますので、つま先さえ上げていれば足指をしっかり上げるメリットはありません。
足の指について、詳細は別の記事で解説しますが、結論としては、指は軽く上げるのが最も効率的です。
あふれる間違ったフォアフット接地の情報
つま先を下げて接地するのがフォアフットだという、間違った説明が大量にあふれています。
スポーツ用品メーカーや、靴販売チェーン店などで大きくつま先を下げた接地をフォアフットとして紹介していることが、多々あります(”フォアフット接地”で検索すればいくつも見つかります)。

しかし、陸上選手でこんな接地のランナー見たことがありません。つま先の角度くらいは映像を調べればすぐにわかることです。
繰り返しますが、正しいフォアフットとは、
「接地の前まではつま先は下がっていても、接地の瞬間は足を地面とほぼ平行にして、小趾球から接地する接地法」
です。
間違った方法では、速く走れないだけでなく、ケガにつながります。特に、つま先を下げて接地すると、ブレーキがかかる分、衝撃が強くなります。
つま先を下げずにフォアフットで接地するには、低ドロップ(つま先とかかとの高さの差が少ない)のシューズのほうが、かかとが低い分やりやすいです。ドロップ0がもっとも習得しやすいです。
一歩一歩、接地の感触を確認し、衝撃が最も少なくなるように工夫していくことで、正しいフォアフット接地に近づいていきますよ。
参考資料
*2. 42.195km科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」, NHKスペシャル取材班, 2013
*3. Biomechanics of Foot Strikes & Applications to Running Barefoot or in Minimal Footwear